LGBTQの活動をどう続けてきたか

4月27日に『医療者のためのLGBTQ講座』という書籍を出版できることとなりました。

www.nanzando.com

たくさんの方にご執筆いただき、素晴らしい書籍となり、医療者に限らず多くの方に手にとっていただきたいと思っています。

 

出版を記念してのイベントを5月3日(火・祝)にYouTube配信する予定です。(出版記念イベント | にじいろドクターズ

 

昨日、できたばかりの書籍を手にして、これまでに感じたことのない喜びが湧き上がってきました。メガネがずれているのも、喜びの表現です。

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医療者のためのLGBTQ講座を手にした瞬間

 

誰かの役に立つかもしれないで、今日は、私がLGBTQ当事者としてカミングアウトし、活動してきた経緯についてご紹介します。

 

私は医学部に入る前、理学部の学生だった頃には、悩みつつも友人・家族、周囲の人ほとんど皆にカミングアウトしていました。

それができなくなったのは医学部に編入した時でした。

閉鎖的な医学部という社会では、セクシュアリティへの配慮はまるでなされないことを教員たちや先輩たちの言葉の端々から感じ取り、ここでカミングアウトすると将来の仕事に影響するかもしれないと危機感をもち、セクシュアリティは隠すようになりました。

 

そこから再びカミングアウトし始めるまで10年以上かかりました。

 

LGBTQ当事者としては、日々の生活にちょっとした嘘が必要だったり、隠し事があることに慣れきっていたため、自分が病院に受診した際に不都合があっても、そんなものだと思い、医療機関側に課題があることには気付けませんでした。

 

ある時、LGBTQと医療について対話するというイベントに参加した際に、トランスジェンダーのお子さんがいるという親御さんとお話する機会がありました。お話を聞いている中で、トランスジェンダーの方が医療機関にかかりづらいということを初めて知りました。

 

医療機関側に課題があるのかもしれない・・・その視点を持ちはじめてみると、気になることがたくさん出てきました。私が医学部で、また医者になってから見聞きしてきた医療者の配慮ない言動は、このままではいけないのではないかと感じるようになりました。

 

世の中を見渡すと、渋谷区で同性パートナーシップ制度が始まり、LGBTQの社員や顧客のサポートを表明する企業がどんどん増え、教育界や法曹界での動きも活発になってきていました。ところが、、、、医療界、特に医師集団のアクションはほとんど見えませんでした。

 

誰かLGBTQのことに取り組んでくれないかな・・・そう思って数年が経っても、大きな動きはありませんでした。

 

そんな中で、臨床研究を学びたいというモチベーションから社会人大学院に入学しました。ところが入学直前に目の疾患を患い、2週間ほどほとんど目が見えないという状況に陥りました。なかなか視力が元通りにならず、仕事もままならない中で、研究を進めるモチベーションが下がってしまい、研究テーマを再考する必要に迫られました。私がLGBTQ当事者であることをお伝えしていた教授とディスカッションさせていただく中で、「LGBTQの研究をしてもいいだよ」と声をかけていただきました。

 

LGBTQの研究をするという考えは、その瞬間まで1つもなかったのですが、自分にとってとても大切なことであり、本気で取り組めるテーマだと感じ、研究テーマをLGBTQと医学教育に決めました。

 

私はLGBTQコミュニティにほとんど出入りしておらず、LGBTQの知り合いは学生時代以来ほとんど増えていない状態でした。医療者のLGBTQのイベントをネットで見つけ、初めて参加して、主催者の方に、「これから医療の世界で活動をしていきたいのだけれど、人脈がないので知り合いを紹介してください!」と話しかけにいくという無礼をしました。その主催者の方は懐の深い方で、その後も一緒に対話の企画などをさせていただいています。

そこから、LGBTQの活動家の知り合いが増え、いろんなことを教えてもらい、サポート団体ともつながることができました。

 

ただ、当事者としてというよりも、医師としての自分としては、気持ちがなかなか追いつきませんでした。

大学図書館で”Homosexual”という単語が題名に入っている論文を取り寄せる必要があるときには、司書の方に変に思われるんじゃないかと不安に思い、用紙を提出するまでに1時間かかりました。

自分が当事者であることを隠しながら、LGBTQの研究をしていると伝えることは私にとっては難しく、大学院の内部の勉強会で発表する際にカミングアウトすることに決めました。ところが初めて発表した時には、不安や恐怖から大泣きしてしまいました。その後、研究を通称名で行えないのかというディスカッションがなされるほどの状況でした。その際に、指導教員というよりも、お父さんのように心配してくださった教授の優しさに、今も支えていただいています。

 

LGBTQ当事者と名乗り出ている医師は少なく、医学部での講演や、病院・大学での講演などをご依頼いただく機会が少しずつ増えていきました。

当事者であっても、LGBTQと医療についての学びは始めたばかりで、医学部で講義できるほどの知識はなく、インターネットで情報を集めたり、英語の分厚い本を初めて読破しながら、何とか形にしていきました。初回の講演では、活動家の大先輩にゲストスピーカーとして来ていただきました。ゲストスピーカーというよりも、その先輩に指導していただいて、やっと講演ができたという感じでした。

 

活動を開始してから約4年ほど経ちましたが、今も日々学んでいて、発表スライドは少しずつ更新しています。

 

そんな中で、イギリスやアメリカなどの医師の活動家とメールをやりとりできる機会があり、どうやって医療界を変えていったらいいかを相談したところ、返事は「1人でできることはほとんどない、仲間を増やせ」と全員から同じアドバイスをいただきました。

 

ちょうど、その頃、今にじいろドクターズとして一緒に活動している代表理事の坂井雄貴先生と知り合うことができました。この出会いは、私の人生を変えてくれました。坂井先生を通して、にじいろドクターズのメンバーと出会うことができ、LGBTQのケアに関心のある医師仲間ができ、私は孤独ではなくなりました。

 

そして、2021年にその仲間達と一般社団法人にじいろドクターズを立ち上げることができました。

 

書籍『医療者のためのLGBTQ講座』は、LGBTQの人々のケアに関心をもった医師が英語文献を読みあさらずに初めの一歩を知ることができる本になりました。さらに支援団体や実践家の方々にも執筆いただいたことで、当事者の方にもきっと学びのある書籍となったと感じています。

パートナーの杏奈に読んでもらったところ、「こうやって活動してくれている人たちがいるって知れてすごく嬉しいし、励まされた」と泣いていました。この書籍には、そういうパワーもあるんだなぁと思いました。

 

私は2018年頃に活動を始めたヒヨッコです。それでも、やれることがありました。

日本がLGBTQの人々がもっと生きやすい、さらに言えば様々なバックグランドがある人達が生きやすい社会になっていくためには、あなたの力も必要です。

是非、仲間になってください。一緒に声をあげましょう。

 

読んでいただき、ありがとうございました。