時間とエネルギーの使い方

私は医師ですが、病院・診療所で診療に携わっているのは週3日だけです。

「先生って、病院に来てない日は何してるの?」と、職場で仲のいい看護師さんから聞かれたことがあります。

「病院には来てないけど一応働いてますよ」と返事をしました。

 

以前はワークホリックと指摘されるほど多くの時間を病院で過ごしていました。

そんなライフスタイルが大きく変わったのは、病気を何度かしたことと、新型コロナウィルスの流行によって、「何のために生きるのか」を考えざるをなかったことがきっかけでした。

 

話が変わりますが、「健康の社会的決定要因」という言葉を聞いたことはありますか?

多くの研究から、所得や教育、ジェンダー等の社会的要因が人々の健康状態に大きく影響しているということが分かっています。こういった健康に影響する社会的な要因を「健康の社会的決定要因(Social Determinants of Health:SDH)」と呼びます。

下にCanada Medical Associationが発表した、何がカナダ人を病気にしてるのか?という図を引用します。

医療機関へのアクセス、医療システム、待ち時間といった「医療(Health Care)」が関与しているのはたったの25%。

50%を占めているのは、収入、幼少期の発達、障害の有無、教育、社会的排除、社会的なネットワーク、ジェンダー、職業・・・・といった「生活 (Your Life)」、すなわち、健康の社会的決定要因です。

世界医師会は、医療者は、こういった健康の社会的決定要因によって生まれる健康格差に対してアクションすべきであると声明を出しています。

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何がカナダ人を病気にしているか(Canadian Medical Associationより引用)

これは、私が普段診療をしていて感じていることと一致していました。

診察室でどれだけいい医療を提供しようと努力しても、経済状況や家庭環境、職場での苦労など、社会的な困難が大きいと、医療にできることはあまりに少なく、無力感を感じることがありました。

 

話を戻しますが、病気をした際に、何のために生きるのかと考えた時、まずは自分がハッピー、家族がハッピーであることを大切にしようと思いました。

そして、自分がやりたいと思っていることと、やっていることとに矛盾がないように生きたいと思うようになりました。

医師としての私にとって、矛盾がない、ということは、上の図で赤に塗られた健康の社会的決定要因に関するアクションを起こすために時間を使うということでした。

ちょうど同じ時期に、自分にとって一番身近なテーマであるLGBTQについて医療者に知ってもらうという活動を始めていました。

セクシュアルマイノリティであることは、今の日本では残念ながら健康の社会的決定要因の一つなのです。

LGBTQについて医療者に知ってもらうことで、どんなセクシュアリティの人であっても安心して医療機関に受診でき、適切な医療を受けられるようにしたい。

そんな思いから、LGBTQと医療に関する活動に時間とエネルギーを費やすことにしました。

 

そんなわけで、今は週3日は病院勤務。残りの4日のうち、1日はLGBTQに関する研究、1.5日はLGBTQと医療に関する講演や執筆等の活動、0.5日は環境問題に関する実践のあれこれ、1日は休日といった感じで過ごしています。

 

環境問題も、状況が悪化すれば、医療どころか人類が生きていくこと自体が困難になってしまうかもしれません。

医療と環境問題は、離れているように見えるかもしれませんが、すべての人が健やかに生きていけるように、という視点で見ると深く関連していると感じています。

 

自分の中での矛盾は解消しましたが、当直も含め激務で医療を守ってくれている同僚がいるから、私の働く病院の医療が成り立っているという大きな矛盾が残っています。

そして私は医師という職業に就いてるので、希望する働き方での生活が成り立っていますが、日本においても経済格差が広がっているという大きな問題もあります。

 

自分でできることは多くはありませんが、様々な課題・矛盾に目をつぶらずに、働き、生活をしていきたいです。

 

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